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【三日後】
平泉勝男は憂鬱だった。
その原因は、昨夜からずっと降り続ける、しとしと鬱陶しい雨のせいでも無ければ、どこかの間抜けが起こしたらしい事故の渋滞に巻き込まれたからでも無い。
彼に憂鬱をもたらす物。
それは、ここ数日の内に立て続けに知人二人。
………いや。同じプロジェクトに関わり、苦楽を共にしてきた友人。浅見と出舞を亡くした事にある。
現在。平泉は、昨夜自宅にて遺体となって発見された出舞の葬儀へと向かう途上であったが、どうやらこの渋滞は思いの他激しいらしく、遅々として進まない車の中に閉じ込められたまま、ただ刻々と時間だけが過ぎて行く。
「会長。少々遠回りになりますが、次の交差点で迂回されますか?」
いつものような鉄面皮と事務的な口調でそう訊ねた秘書に、「ああ」とだけ短く答えた平泉は、無数の雨粒で濡れる窓へと視線を移し、篠突く雨に閉ざされた世界をぼんやりと眺めた。
先の浅見にしろ、出舞にしろ、余りにも唐突すぎた彼等の死については、それが単なる不幸な偶然で無いと、事ここに至った今ハッキリと認識出来るが、それは同時に最悪の悪夢を平泉にもたらす事となった。
先日。出舞の通夜に出席した際、彼の死は何らかの突発的な病に拠る物であり、事件性は皆無だと聞かされていたが、これは明らかに仕組まれた結果に過ぎず、“奴”からのシグナルだと考えて間違い無いだろう。
《オーロラを渡さ無ければお前は全てを失う》
そんな単純明快な脅しを孕んだシグナルが、単なる脅しで済まない事は、浅見と出舞の末路を見れば明らかで、奴の思惑通りに相当追い込まれているのは紛れもない事実だ。
墓場で眠りに就くオーロラの墓守である以上、この悪夢は永遠に自分を苛み続けるし、じゃあと墓守の責務を放棄した所で、全てを失うという結果が変わる訳でも無い。
墓で眠りに就くのはオーロラだけで無く、それに付随した表向きに出来ない秘密の数々である以上、それを守る為には、墓守の責務を負い続けるしか無いのである。
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