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「ねえねえ、これ見てー」
「何?」
「じゃじゃーん! 新しいハンカチ買ったんだけど、これ、目盛り縫ってあるんだ。これで定規忘れても大丈夫だよ。ほら、ちゃんと十五センチ!」
「は!? 何それ、センス悪っ!?」
「はあ!? 可愛いでしょ!?」
ハンカチの刺繍は、十五センチ定規で。
「おは、よ……あれ、なんか変。いつもと違う気がする」
「変ってひどい! 髪切ったんだよ、こんなにばっさり短くなったんだからそれくらい分かってよ!」
「なんで急に。失恋?」
「暑いからだよ!!」
切った髪の長さは、十五センチで。
「私寝るから、起こしてね」
「はいはい」
「絶対絶対起こしてね」
「はいはい。起こす起こす」
かけたタイマーは、十五分間で。
俺たちの間には、毎日毎日、たくさんの十五があった。
隣り合わせの椅子と机。
教科書の横幅。
あけた距離。
身長差。
もらった鉛筆。
貸した定規。彼女のハンカチ。
細長いその指。
俺たちの、年齢。
中学三年の夏、たくさんの十五が、そこかしこにあった。
数え切れないくらい、あふれるくらい、あったのに。
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