盛夏

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「おーっす。……あれ、まだ来てないのか」 その日、いつもなら俺より早く来る彼女が、まだ来ていなかった。 ……まあ、そんなこともあるだろ。 もしかして、毎日勉強して疲れてんのかな。たまにはアイスでも奢ってやるかなあ。 彼女から提案してくるし、俺が手を抜くと怒るだろうし、真ん中で二つにぱきんと割るアイスを奢ってもらうのは、いつも俺だ。 いや、だって条件が悪い。 得意科目の人に不得意科目の人が挑んでも、あまり勝ち目がないのは明白だろう。 ただ、それじゃあまりに申し訳ないというか、俺ばかり得しているというか、ちょっと不公平なので、アイスの代わりに飲み物を奢ってはいる。 ……よし、今日は特別にアイスを奢ってやろう。そうしよう。 はじめはそんなふうに無邪気に、きっと少し遅れて来るのだろうと気楽に思っていた。 でも、何度職員室に涼みに行っても、いつもの補講の時間が終わっても、半分に分けるはずのアイスを二つとも食べてしまっても、なぜか彼女は来なかった。 はかどる勉強が無性に虚しい。 ……なんで、なんで来ないんだよ。なんで。 もしかしたら、もしかしたらと待ち続けたけど、全然来ない。 さすがにおかしい、と諦めてようやく聞きに行ったのは、辺りが真っ暗になってからだった。 「先生、一緒に補講してる人が来てないんですけど……」 職員室の涼しさに、一緒に涼んでやろうと思ってたのに、とまた彼女のことを考えて。 そうして。 「あれ、聞いてない? 彼女、引っ越したんだよ」 「え」 何気なく落とされた言葉に、頭が真っ白になった。 ──中学三年、十五歳の夏。補講の最終日。 たくさんの十五を置いて、彼女はいなくなった。
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