盛夏

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のろのろと片付ける。 わざわざ多めにもらって隣の机に分けておいたプリントをまとめて先生に返して、ひどく重い足取りで校門を出た。 喉が渇いていることに気づいて、通りの自販機で俺が好きなミルクティーを買う。 ……ああ、そういえば、好きな飲み物も知らない。 いつも一番安いのでいいよって言うから、二人で水かお茶ばっかり買っていた。 今さらな気づきは、驚くほど息苦しくて切ない。 そうだ。そうなんだ。 俺は、彼女の好きな飲み物も知らない。 十五が好きだってことしか知らないのに、あまりに見つけたたくさんの十五が身近にありすぎて、彼女をたくさん知っている気になっていた。 知ってるつもりだった。 本当は、引っ越すことさえ教えてもらえないくらいの仲で、それほどたくさんのことも知らないくせに。知ろうと、しなかったのに。 ……それでも俺は、隣の席の彼女が、十五が好きだと笑う彼女が好きだったんだ。 あの、真夏の太陽みたいな暑苦しいまでの眩しさが、アホな掛け合いが、炭酸が弾けるような笑い声が、好きだった。 久しぶりに一人で歩いた帰り道は、もうすっかり薄暗かった。
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