盛夏

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「あーもー分かんないー!」 「いいか早まるな、よく考えろ、部分点取れよ!?」 本当に心配になる彼女との補講は、大抵二人きりだった。 朝十時、先生はプリントをたくさん置いてさっさと職員室に帰ってしまう。 多分、ものすごく暑い教室にいたくないんだろう。 A3判の両面印刷してある問題を一枚解き終わるごとに職員室まで提出に行って、採点してもらって次に進むシステムだ。 間違ったら正解するまで何回も解き直し。それを夕方ごろまでやって、解散。忙しければ帰ってもいいし、疲れたら休んでもいい。 最低五枚は頑張ろう、という簡単な目標設定は、大抵お昼にはおおよそ達成できる。 そんな日が二日ほど続いて、二人きりになると、どちらからともなく話をするようになった。 ときどき涼みながら、順調に解いていく。 「暑い。溶ける。暑い」 「暑いねー」 ぐたりと机に倒れ伏した俺に、彼女はまだまだ元気そうな声で相槌を打った。 うええ、机がなまぬるい……。 「解き終わった?」 「まだ。解き終わった?」 「解き終わった。提出して涼んでくる」 「え、速い! 羨ましい! 私も涼みたい!!」 シャーペンをほっぺたにぐにぐに押しつけていた彼女が、勢いよく振り向いた。 「俺だって涼みたい」 「ええー、私は全然涼めないのにー」 「頑張れ」 「頑張ったけど頑張れないから教えてほしいです」 「……はいはい」 わいわい騒ぐ彼女に、結局根負けして教えるのが常だった。
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