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手紙に書いて想いを伝えることにした。
直接言えるほどの勇気がなかった。
先生の靴箱にそっと隠すように入れた。
誰にも許されることのない想いを伝えて紫野先生を傷つける事だけはしたくない、って。
でも、手紙にするべきじゃなかった。
やっぱり昨日、下校する前に直接言えば良かったんだ。
誰がなんと言おうが、ちゃんと直接伝えていれば紫野先生の耳に心に慕う気持ちは伝わったはずだ。
ーーたとえ、短い時間であったとしてもーー
当然のように昨日は「明日があるから。」と思っていた。
でも、その当然の明日はやってこなかった。
先生は校門を出てすぐ、この世界から旅立った。
僕が想いを伝える時間さえ作っていたら、そして紫野先生を足止めさえさせていたら。
考えるそばから渦の中にバラバラに飲み込まれていく。
翌日の朝礼での報告は哀しみに包まれていた。
でも僕にはそのすべてが全くの嘘だとわかっていた。
僕には聞こえる、あの田舎言葉で。
「式部の呪いがさ迷うじゃん。」
「あの校門、写メっとこ。」
「こんな忙しい時期にあんな轢かれ方だなんて、生徒にどう説明しましょうかね?」
所詮みんな同じだ。
涙を流す暇もなく、今僕は校舎の屋上から先生が旅立った校門を見下ろしている。
「もう少し先生のそばに行ってもいいですか?」
僕はフェンスを乗り越えた。
でも先生、こうは思いませんか?
「めんどくさい仕事を増やされた」と思われるだけで、「先生の後を追った」という真実の愛を信じる人なんて誰もいないのだろうな、って。
(おわり)
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