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 これ以上、私が立ち聞きするのは野暮というものだ。馬に蹴られてしまう前に、ひっそりと退散することにした。  がたんごとん。  聞き覚えのある音がした。四角い鉄の塊がいつのまにかやってきて、停車している。二人は私の方を見上げてぽかんとしていた。 「私、行くね」 「待って、お姉さん。これ、もらえないわ!」 「いいの。私が取りに行くまで持っていて! 夏が来たら、私も来るから!」  電車の音に負けないように叫ぶ。少女は私が差し出したハンカチを手に、駆け寄ってこようとしていた。それを止める。渡しに来る必要はない。これから会いに行くのだから。  大きく手を振って、電車に乗り込む。締まるドアの向こうでは、少女と少年が手を振っていた。 「ありがとう。おじいちゃんのことが見れてよかった。おばあちゃん、未来で会おうね」  私は誰にも聞こえないように小さく呟いた。電車の中は誰もいない。静かだ。  がたんごとん  電車が揺れる。私の視界も揺れる。暗くなって、立っていられない。私は急に眠くなって手すりに寄り掛かり、目を閉じた。
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