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 奈津が来ないと夏が来た気がしない。  そんなことを冗談めかして言う祖母だった。正直言って、冗談のセンスは壊滅的だと思う。私は祖母の冗談に苦笑するしかなかった。名前の響きが一緒だからって、季節とひとくくりにしないで欲しい。私は別に夏を告げる存在でも何でもないのだ。むしろ、夏は苦手なので、遠慮したい。  黙っていればいいのに、生意気だった私はそんなことを言った。もしも私だったらぶん殴っていただろうが、祖母は指先を唇に添えてころころと楽しそうに笑っただけだった。意味ありげに目を細め、しわくちゃの顔で私の頭を撫でる。 「いつか分かるときが来るからね。その時はよろしくね」 「何それ。意味わかんないんだけど」 「いいのよ。その方が素敵だから。奈津ちゃん、そのままのあんたでいなさいね」  同じ話の流れになるたびにどういうことかと問い詰めても教えてくれなかった。祖母は小指をなぞるだけである。成長するにつれ、そのことも気にしなくなっていた。  私にとって祖母は鬱陶しいけれど優しい人だ。早くに祖父を亡くしているため、私は写真だけでしか祖父を知らないから余計に祖母の印象だけが強い。何をするにも一緒だった。旅行に出かけるときは必ず手を繋いでいたし、卒業式があれば必ずおめかしをして出席をしていた。恥ずかしかったけれど、嬉しかったことをよく覚えている。私が活躍すれば大げさなほどに喜ぶ祖母。  愛されていることなんて、よく分かっていた。それに甘えていたことも否定しない。もういい歳だというのに、愚かにも信じ切っていたのだ。祖母はいなくなったりしないと。だから、まさか祖母が死ぬかもしれないなんて想像していなかったのだ。
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