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 実家を出て、遠く離れた都会に出た私は大学生活を楽しんでいた。バイトに、授業に、遊び。何をしても怒られない。自分でおおよそのことを決めることができる。私は初めて親元から離れたことで経験できる自由を楽しみ、たまには帰ってきて祖母に顔を見せなさいという言葉を蹴っていた。私は目先のことしか考えていなかったのだ。だから、気づくことができなかった。 「おばあちゃん……」  祖母が倒れた。ずっと前から体の具合が悪かったらしい。農作業中に倒れているところを発見され、病院まで運ばれたそうだ。  その連絡を受け取っても、すぐに動くことができなかった。目の前が白と黒に点滅している。ショックが大きすぎて、ふわふわと浮き上がっていた。だって、祖母は年齢の割に元気で、体が頑丈なことが取り柄だと常に言っていたのに。帰ってきなさいという母の言葉に、私は力なく返事をしていた。  過去の後悔と自己嫌悪で埋め尽くされながらも、無意識に行動はしていたようだ。驚きである。どうやって実家へ帰るための準備や手続きをしたのだろう。  気づいた時には、重たい鞄を背負って電車を待っていた。祖母を失うかもしれないというときでも、喉が渇くしお腹が減る。それがとても残酷なように感じていた。ペットボトルのふたを捻り、水を流し込む。  果たして使う人がいるのだろうかと思いたくなるような貧相な駅。私は誰もいない駅のホームに立ち尽くす。梅雨も明けて、じんわりと暑くなってきた時期。30度を超えるのが当たり前。たしか、今日も最高気温はお風呂の温度と同じくらいだった。  そのくらい暑いはずなのに、何も感じない。びしょぬれのペットボトルをハンカチで拭い、電車を待つ。今にも折れそうな椅子に座るのが嫌で、遠くの山を眺めながら突っ立っていた。
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