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 山の緑と空の青が鮮やかで美しい。でも、気分は憂鬱だ。いっそのこと、雨が降ってしまえばいいのに。私の心情が一切反映されていない空へ、八つ当たりする。睨んだって、空は変わりはしない。 『奈津がいないと、夏が来た気にならないねぇ』  祖母のそんな言葉を聞いたのはいつが最後だっただろうか。二が月か、三か月前だったような。もしかしたらそれは、珍しく電話してきた祖母の、寂しいという合図だったのかもしれない。でも、私は忙しいからという一言で帰省を断ってしまった。その事実が重く伸し掛かる。  もう少し、言い方があったのではないだろうか。今さら後悔しても遅いと、言われるかもしれない。それでも私は後悔することしかできなかった。どうか死なないでと祈る。信じていない神にさえも、縋りたい。  一秒があまりにも長く感じる。じれったい時を過ごして、ようやくだ。  足の裏から振動が伝わってきた。予定時刻より早いが、その方が焦っている私にとってありがたい。今時は珍しい開閉ボタン付きの電車が目の前で停止する。機械的に流れるアナウンスを聞き、私は一歩足を踏み出す。  ひんやりとした空気と、生温い空気が混じり合って汗を吹き飛ばした。ぞわりと背筋が寒くなる。違和感があった。まるでおかしなところに入り込んでしまったかのような。  ―――疲れているのだろうか。特に変なところなどないから、そうかもしれない。ライトノベルの見過ぎだ。おかしなことなんて起こらない。むしろ、異世界転生とかそんなことが起こったら困る。これは現実。私はこめかみを押さえた。  明るい日の下から電車内へ移ったことで目が眩む。わずかな段差につまずいて、倒れそうになった。来るべき衝撃に備えて目を閉じる。  そして、視界が暗転した。
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