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さわやかな風が肌を撫でる。ころんと石が落ちる音がした。日差しは強いけれど我慢できなくもない。気持ちがいい。やっほーと叫びたくなる。
私はあれっと思った。だって、私は電車に乗ったはずなのだ。たしかに、人工的な冷たい空気を感じたし、なんなら乗った駅の表示まで覚えている。車掌の間延びした声も確かに聞いた。
これではまるで、外にいるかのようだ。
ようやく異変に気付いた私は目を開いて、言葉を失う。ここは、どこだ。
荒れた大地に立っていた。草木はほとんど生えておらず、瓦礫ばかりが積み重なっている。どこもかしこも似たようなもので、目を覆いたくなるような有様だった。それでも、空だけは変わらずに青いのが皮肉である。線路など、ありはしなかった。
私はただ、きょろきょろと辺りを見回すことしかできない。寝過ごした、なんてことはないだろう。一瞬で劇的に変わるようなことがあったかもしれない。だが、先ほどまでいた場所の名残すらないのはおかしい。
「おばあちゃんのところに行かないと」
見慣れない景色を前にして思うことがそれだった。このままでは後悔してもしきれない。私は行かなければならないのだ。とにかく前へ。人を探して道を聞かなければ始まらない。
そうして足を進めた。だが、探しても探しても人が見つからない。困り果てていた時だった。勢いよく少女がぶつかってきたのは。
「わっ」
「きゃっ」
つまずいて前へ倒れこみ、少女は後ろへ倒れる。私は膝についた汚れを振り払い、起き上がった。膝をすりむいてしまったが、この程度で泣くほど子供ではない。
「ご、ごめんなさい。前を見ていなくて」
「いえ……」
制服を着ているということは、学生なのだろう。少女のために手を差し伸べる。彼女は申し訳なさそうに眉を下げて、謝った。
少女の顔。視線を合わせて気づく。私や母とどことなく顔立ちが似ていたのだ。鼻の形とか、目の大きさとか、面影がある。鼻と目を赤く染めた少女も、きょとんと私のことを見上げていた。
「よければどうぞ」
ハンカチを差し出す。少女は遠慮しているようだったが、強引に押し付けた。彼女は猫の柄のついたハンカチに頬を緩ませて、目からあふれそうになっている雫を吸い取る。
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