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少女はやがて、大きなため息をついた。先ほどまでの顔から一変して、落ち込んでいる。
「好き、なんです。ずっと一緒にいると思っていて……なのに、私だけ知らなかった。頭がいいのは知っていたから、応援したかったのに、大嫌いだからいなくなって清々するなんて、ひどいことを」
「当たり前にいるから、突然手の届かないところに行くかもしれないなんて、思わなかったよね。それで、びっくりして悲しくて思っていなかったことを口にしちゃったんだ」
「はい。けんちゃん、きっと私の事嫌いになっちゃった……」
よほどけんちゃんという子のことが好きなのだろう。また、目から涙が滴り落ちる。羨ましくなるくらい、一途だ。
「けんちゃん、どんな子?」
「口が悪くて、自分の思い通りにならないと不貞腐れる面倒なやつです。でも、私が困っていたら飛んできて黙って助けてくれました。誰よりも頑張っていて、私の何倍も勉強をしています。だから、私、そばにいたかったんです」
むっとしたかと思えば笑って、懐かしそうに目を細めて、けんちゃんとの思い出を口にする。彼のことをしっかりと見てきたのだろう。いいところも悪いところも含めて語ることができるほどに。
私は少女がやってきた場所を見て、安心する。彼女の大事な人はまだそばにいて、いつだって会いに行ける。手遅れではない。
「それなら、なおさらけんちゃんに謝った方がよくない? ずっとそばで見てきたんでしょう?」
「でも、合わせる顔がないっ」
「そのまま手の届かないところに行ってしまった後の方が辛いと思う。私、おばあちゃんが倒れたから会いに行く途中だったの。面倒くさいからってないがしろにして、すっごい後悔している。もっと、言っておくべきことがあったのに。ごめんね、ありがとうって、言いたい」
私はくしゃりと顔を歪める。涙をこらえようと、我慢しているのに視界がぼやけた。身勝手な自分が死ぬほど恥ずかしくて、そのくせに合わせる顔がないからと後回しにしたがる考えに嫌になる。私は、こんなに酷いやつだったのだ。
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