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 少女は背伸びして、ぎゅっと抱き着いてきた。祖母がするように首の後ろに手を回し、とんとんと背中を叩く。私はなつかしさに支配され、とうとう耐え切れなかった。一滴だけこぼれた涙を掬い取る。 「引き留めてごめんね、お姉さん。早く行ってあげて。私、けんちゃんとしっかり話してくる。全力で私のことを忘れられないようにするわ。だから、約束。お姉さんもちゃんとおばあさんに謝って、気持ちを伝えてね」 「ええ、もちろん。絶対にそうする。約束」  鼻をすすりながら、私は頷いた。メイクが崩れて大変なことになっているかもしれないけれど、彼女は何も言わなかった。にっこりと笑った顔にあるえくぼに、私ははっとする。もしかして。それを確かめる前に、少女に向かって声がかけられた。 「きみちゃん、君枝!」 「けんちゃん……」  彼が噂のけんちゃんのようだ。真っ黒な顔に精悍な顔立ち。私に対してぺこりと頭を下げ、少女の前で崩れ落ちるようにして土下座をした。額に泥が付くことも気にしていない。 「ごめんよ、きみちゃん。黙っていてごめん。きみちゃんに言い出せなかったんだ」 「いいえ、私もごめんね。大嫌いなんて嘘。けんちゃんなら大丈夫、応援しているわって言いたかったのに、ごめんね」 「いいや、俺の方が悪い。きみちゃんを泣かせてしまった」 「違うわ、私が悪いの。だから立って」  ぐいっとけんちゃんの腕を引っ張り、立ち上がらせる。けんちゃんは少女の手を宝物のようにして包み込んでいた。そして、そのまま自分の方が悪い、いいや自分だと繰り返している。どう見ても相思相愛。私がいらないお節介をする必要などないだろう。
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