蓄音機の家

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「ありがとうございます」 「ありがとうございます」 「ありがとうございます」  A君は夏休み明けには転校していきました。彼のみならず、肝試しに参加した他の児童も転校したり不登校になったり、精神的なショックにより治療を受けたりと異例の事態になりました。  この事件をきっかけに、学校や各家庭からは「蓄音機の家」に児童が近づくことを固く禁じられ、地域の見守り運動も活発化しました。  それ以降、小学校を卒業するまで同様の事件が起こったという話は聞きませんでした。    私は小学校卒業と同時に引っ越してしまったので、「蓄音機の家」が今もあそこにあるのか、A君達はどうなったのか、あの写真の人物は何だったのか、いずれもわかりません。ネットで「蓄音機の家」や関連するキーワードで検索してみたりもしているのですが、該当するような事例は見つけられずにいます。  私がいまだに恐ろしいのは、A君が聴いたという蓄音機からの言葉です。  「ありがとうございます」とは何に対してのお礼なのでしょうか?あの写真に写っていた人物の発した言葉だったのでしょうか?  もしそうなら、A君達はあの家に眠っていた恐ろしい何かを呼び起こしてしまったのでしょうか。  だとすれば、あの写真の中で笑っていた得体の知れないものは、今もこの世のどこかを彷徨っているのかもしれません。
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