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続いて、一羽、また一羽と、他のカラスたちも、重厚な嘴をぶら下げ、次々と空から滑り降りてくる。気がつくと、グラウンドには、数十羽のカラスたちが集まっていた。祭りのあとは、カラスの祭りだ。彼らは皆、人間の食べこぼしたものを探し、啄ばみ、広場中を跳ね回っているのであった。きっと彼らは、この時を待ちわびていたのだ。祭りが終わり、人の気配が消えるのを。何処かから遠巻きに眺めながら、じっと待っていた。僕と同じように。
僕は、ついに広場の端のベンチから腰をあげると、カラスの宴を横目に、目的の場所へと歩き出した。
広場の南西の角は、紫陽花の青葉や、低木が密集し、鬱蒼としている。そこの真ん中の二本の低木の間を、枝葉を払いのけ、羽虫の群に顔をしかめながらくぐり抜ける。すると、わずかに視界が開け、狭い小道があることが分かる。その小道を抜けると、突き当たりには、少し開けたスペースがある。一つのベンチと、一本の街灯があるだけの簡素なスペースだ。この場所を見つけたのは、ずいぶん前、確か五歳の頃だった。母親の機嫌をひどく損ねて、家から締め出された時に、精一杯の放浪の末に見つけた場所だ。家からおよそ徒歩10分。滅多に人の来ないこの場所は、今でもぼくのお気に入りだ。
僕は、折畳み式のイーゼルを組み立てると、その上に描きかけの小さなキャンバスを設置した。そして、画材セットの蓋を開け、急いで準備を済ませる。かなり出遅れたが、完全に暗くなってしまうには、もう少しあるだろう。絵は昨日のうちにほぼ完成しているから、あとは空の部分の仕上げだけだ。そして僕は、筆をとる。
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