カラスの祭り 一日目

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それから僕は、大森くんの画風を真似て、絵を描くようになる。すると、大人たちから褒められるようになった。次第に、どのように描けば大人たちから評価されるかが自分でも分かってきて、虚飾に虚飾を重ねた。僕が表彰される度、母親はとても喜んだ。リビングの壁に掛けられたいくつもの表彰状、その文言ーー「のびのびとした」「明るく元気いっぱいの」「生き生きとした」ーー全部僕に向けられた言葉なのに、どれ一つとして僕の方を向いていない気がしていた。僕は、自分が陰気でひねくれた子どもだと自覚していたから。日に日に、騙しているという罪悪感だけが募っていった。 しかし、中学生になると、流石にそのような偽りの「子どもらしさ」なんてものは通用しなくなった。コンクールでは、技術とセンスが突出した絵が、順当に賞を貰う。当然、僕みたいなやつの絵は評価されなくなる。すると母親も僕の絵に興味がなくなったようだ。僕は肩の荷が下りた。誰かからの評価を目的に絵を描くことはやめた。ただ、それでも僕は何故かこうして絵を描き続けている。嘘や虚飾をできるだけ排除した平凡な風景画。僕には丁度、これくらいがいいのだ。僕には、どうせ大した個性はないし、表現したい感情も特に見当たらない。だから、僕は、これでいい。 そんなことを考えながら、また筆でパレットの絵具をすくい取ろうとした時のことだった。 「ねぇ!」 突如頭上から降り注いできた大声。僕は驚愕のあまり、全身を激しく引きつらせた。絵筆が指の間からすっぽ抜け、地面を転がる。その先にはすらりとした二本の脚。白くて細い指が、僕の絵筆を拾い上げた。 「ごめんなさい。驚かせてしまったみたい。」     
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