カラスの祭り 一日目

5/7

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
僕はやっと、声の主の顔を視界に捉える。僕と歳の近そうな少女だ。艶のある黒髪を肩の辺りまで垂らし、微笑みを浮かべて僕の方を見ている。整った顔立ち、そして何より、好奇心に見開かれたような黒く大きな瞳に目が釘付けになる。その二つの瞳で見据えられた僕は、なんだか逃げ出したいような気持ちになる。僕は頭を下げて、彼女が差し出す絵筆を受け取った。 「描いてるの、見せてもらってもいい?」 「も、もちろ」 言い切る前に、彼女は僕のキャンバスを覗きこんだ。少し意外そうな顔をして、また微笑む。 「凄い上手!ここの景色だね、昼間の。」 少し意外そうな反応は、やはり夕方の景色を期待したからだろうか、僕は慌てて弁明をする。 「はい、本当は昨日の昼の景色なんです。昨日は途中で雨が降って、完成させれなかったから。どうしても仕上げておきたくなっちゃって。あんまり間が空くと、続き描く気なくなっちゃうし……。」 僕がそう言うと、彼女は小さく笑った。 「敬語じゃなくていいよ。同い年なんだし。それに本当は、私の方が敬語じゃないといけないくらい。」 どうして、僕の年齢が分かったのだろう。制服の名札の色だろうか。僕は頷いた。 「分かった。ええと、君はこの辺りに住んでるの?」 「ううん、住んでるのは結構遠いところ。休みだから、父親の用事に付き合って、昨日からこの辺りまで来てるんだよ。」 道理で、見かけたことがないはずだな。僕はそう考えながら、殆ど完成したキャンバスに向かって、いたずらに筆を動かしながら、彼女の話を聞く。 「この辺って、凄く人が多いんだね。」     
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加