カラスの祭り 一日目

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「うん、気を付けて帰って。」 家に帰り、二枚の油絵を並べてみる。今日仕上げたものと、前に描いたものだ。やっぱり、前に描いた絵の方がいいな。新しいのは、木々の感じがのっぺりとしていて、立体感がない。葉の色も淡すぎるし。よし、顧問に提出するのは古い方だけにして、この絵はボツにしよう。 そして、ふと後悔がよぎった。どうせなら、彼女にも出来のいい方を見せたかった。あれから時間が経つにつれ、今日のことは、まるで夢だったかのように思えてきた。あんな綺麗な女の子が、僕なんかに話しかけてくれるなんて。また会おうとは言ってもらえたものの、もう二度と会えないのに違いないという気持ちが強まっていく。なんとか彼女の面影を記憶に留めたい。そして、目にとまったのはボツにした方の風景画。ーー出来心。僕はその絵の風景を一部、白い絵の具で抜くと、彼女の姿を描き込んでいく。黒い髪、白地に花柄のワンピース、カラフルな球を繋いだネックレス、そしてーー。
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