カラスの祭り 二日目

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急に室内が静まり返ったかと思うと、顧問が来たようだ。皆、各々が文化祭に出展する予定の絵を持って、アドバイスを仰ぎに行く。僕も一応、一枚の絵を持って顧問の元へと行った。 「うーん、小木山の絵はなぁ。上手いことには上手いんだが、少し単調だよな。何を描きたいとか、何を見てほしいとか……そういう描き手の顔が見えてこないというか。」 毎回、言われることは一緒だ。僕は適当に相槌を入れて、やり過ごそうとする。 「風景に人物か何か入れるだけでも、動きが出ていいんじゃないか?」 普段なら聞き流せている言葉だ。でも、ふと昨日のことが思い出されて、僕はどきりとした。 部活動の後には、軽く腹ごしらえをしてから、あの場所に行く。そう、いつも通りだ。何も期待してなんかないと、自分に言い聞かせた。僕は、ベンチに座るとスケッチブックを広げ、気を鎮めようと、鉛筆を持つ手をひたすらに動かした。やがて僕の意識は絵の中に霞んで行く。蝉の声が、どこか遠くにある僕の鼓膜を震わしている。 「今日も、ずいぶんと熱心なんだね。」 聞き覚えのある声がして、はっとした。手元から視線を外すと、彼女が、昨日と同じように笑みを浮かべ、眼前に立っている。僕の胸が弾む。促すと、彼女は目を細め、僕の隣に腰を下ろした。 「絵を描くの、好きなんだね。」 「どうかな。そうでもないのかも。」     
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