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「これ、大崎が寧々さんにって。」
帰ってきた伊都が手にしていたのは、コンビニのチョコレートケーキだった。シチューを鍋からお玉ですくって、器に移していた手が止まる。
「私のせいで秋吉にも寧々さんにも迷惑をかけたからって。」
そう思うなら、別の人を頼ってよって言いたくなるのは、私が腹黒いからだろうか。
「どうする?もう遅いし明日食べる?」
「いらない。」
笑顔で「そうする」って言えたら良かったのに、突き放すような言い方しかできなかった。
「何で?チョコレートケーキ好きじゃん?」
「今日嫌いになった。」
分かっている。今の自分は小学生みたいだって。だけど……男ってこういうことに鈍感なの!?って思うのだ。私に菩薩の心なんてない。食べたいって思えるわけがない。
「シチュー入ったよ。私、もう寝るからケーキは伊都にあげる。」
流しにお鍋を荒々しく置いて、スポンジに大量の洗剤をかけて、底が見えなくなるくらい泡立てて洗った。
伊都を困らせている。疲れて帰ってきた伊都を余計に疲れさせている。
「寧々……大崎のことで怒ってる?」
「怒ってない!おやすみなさい!」
自分からシャットアウトした。別に伊都は悪くない。
「君は確かに宮坂の彼氏で幼馴染みみたいだけど、君に彼女が誰と仲良くなるかを止める権利はないはずだよ?」
河邑さんの言葉は私にも当てはまる。じゃあどうしたらいいの?止める権利はない。ないけど、このどこにもぶつけられない思いは、どうやって消化したらいいの?
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