多忙な二人

10/25
前へ
/576ページ
次へ
「これ、大崎が寧々さんにって。」 帰ってきた伊都が手にしていたのは、コンビニのチョコレートケーキだった。シチューを鍋からお玉ですくって、器に移していた手が止まる。 「私のせいで秋吉にも寧々さんにも迷惑をかけたからって。」 そう思うなら、別の人を頼ってよって言いたくなるのは、私が腹黒いからだろうか。 「どうする?もう遅いし明日食べる?」 「いらない。」 笑顔で「そうする」って言えたら良かったのに、突き放すような言い方しかできなかった。 「何で?チョコレートケーキ好きじゃん?」 「今日嫌いになった。」 分かっている。今の自分は小学生みたいだって。だけど……男ってこういうことに鈍感なの!?って思うのだ。私に菩薩の心なんてない。食べたいって思えるわけがない。 「シチュー入ったよ。私、もう寝るからケーキは伊都にあげる。」 流しにお鍋を荒々しく置いて、スポンジに大量の洗剤をかけて、底が見えなくなるくらい泡立てて洗った。 伊都を困らせている。疲れて帰ってきた伊都を余計に疲れさせている。 「寧々……大崎のことで怒ってる?」 「怒ってない!おやすみなさい!」 自分からシャットアウトした。別に伊都は悪くない。 「君は確かに宮坂の彼氏で幼馴染みみたいだけど、君に彼女が誰と仲良くなるかを止める権利はないはずだよ?」 河邑さんの言葉は私にも当てはまる。じゃあどうしたらいいの?止める権利はない。ないけど、このどこにもぶつけられない思いは、どうやって消化したらいいの?
/576ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8754人が本棚に入れています
本棚に追加