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[今夜は伊都の家にいます]
おやすみと両親に言ってから、枕に張り紙をして私は家を飛び出した。伊都に会いに行くことを止められるわけがなかった。待ってると言われて、行かないことはできなかった。
「伊都、来たよ。」
振る舞いを変えずに勢いをつけてドアを開ける。でも、本当は心の内は荒れ狂う波のようだ。まだ子どもだけど、無邪気に戯れ合うような年齢ではない。このまま二人で朝までいて、私は平常心を保てるのだろうか
「どうぞ。」
伊都に促されるまま、ラグの敷かれたフローリングに座る。
「これあげる。」
私の隣に腰を下ろした伊都が差し出したのは、A4サイズのものが、横にしてちょうど入る手提げ鞄だった。
子ども向けの洋服を展開しているブランドメーカーが作っている手提げ鞄で、タータンチェックのが可愛いと女子中高生の中で人気だった。
「誕生日おめでとう。寧々さ、部活に行く時にそういう鞄に楽譜とか部員との連絡ノートとか入れてるでしょ?だから、使えるかなって思って。」
「伊都……ずるいよ。こんな……」
ただの幼馴染にこんな素敵なものくれるなんて。しかも、私が手提げ鞄に必要なものを入れて部活に行っているのを把握してくれているなんて。
「寧々、部活頑張ってるから。」
ふわっと伊都の手が頭に触れて、優しくなでられる。学校ではあまり見せない全てを包み込んでくれるような笑顔。
もう我慢できなかった。私は自ら伊都の体に自分の体を近付けて寄り添った。
「大切にする!すごく嬉しい!」
結局、この鞄は高校卒業まで使い、大人になった今もマフラーなど冬の小物を収納して、クローゼットに吊るしてある。
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