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「私も伊都にプレゼントがあるの。」
寧々が欲しいなんて言われたけど、やはり何か贈り物をしたいって思って、昼夜問わず悩んで決めた。
「マフラー。ほら、これから寒くなるし……。」
伊都は寒がりだから。長く使えるようシンプルなものにした。ダークグレー一色のマフラーだけど、カシミヤで温かいのは間違いない。
「ありがとう。俺ね、ちょうどマフラーを買い替えようかなって思ってたから嬉しい。」
もうお互いに距離はなかった。彼女いるのにって私の中で現在の彼女への罪悪感がなかったわけでなはい。でも、今日ぐらいは誕生日ぐらいは、好きな人と一緒にいたい。
「寝よっか。」
伊都の指が毛先に触れる。
「……うん。」
久しぶりの伊都のベッドの中。隣にいる伊都は昔とは比べ物にならないぐらい大人びてきた。
ベッドに入ってしばらくは、昔を懐かしむようにお喋りをした。今日の誕生日会のケーキが美味しかったこと、明日からの学校のこと。それからお互いにどれぐらいプレゼントに悩んだかの言い合いもした。その全てが楽しくて、私も伊都も話を途切らすことはしなかった。
「いい加減に寝ないとね。起きられなくなる。」
「そうだね。」
0時を過ぎて日付が変わった。明日というか今日はいつもと変わらず学校がある。
伊都はリモコンで部屋の明かりを消した。
「寧々、こっちにきて。」
「……!」
伊都の言うこっち。きっとそれは彼の腕の中。急に訪れた暗闇。今なら誰も見えない。誰も知らない。
私は手を伸ばして伊都に抱きつき、彼の胸に顔を埋めた。
「おやすみ。今日は来てくれて嬉しかった。」
きゅっと自分の背中に回る伊都の腕。
あぁ、今、私は伊都に抱きしめられているんだ。逃げたあの日以来だ。この人の体温に触れるのは。我儘なんて言わない。今日だけでいい。今日だけこのまま朝を迎えたい。
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