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あーあ、つまらないと言いたげな顔をして、腕を組んで私の目の前に河邑さんが座っている。
「結局、彼は宮坂さんの気持ちを汲んで、ケーキを仕事場に持っていってくれたんだ。」
なぜにこの人に恋話をしたのかと言うと、最後の課題に行き詰まり、気分転換に「じゃんけんで負けた方が相手が聞きたい話をしよう」と言うことになり、私が負けたからだ。
「じゃあ、最近の君の恋愛事情で。ちなみに、俺にじゃんけんで勝とうなんて無謀だよ。俺、10回したら8回は勝つもん。」
「えっ!?そんなに勝てるんですか!?」
「相手の顔を見たら、だいたい何を出そうとしてるか分かる。」
普通は分からないし。河邑さんがエスパー的な能力を持ってるんじゃ……。
そんな下りがあって、私はケーキの話を河邑さんにすることになったわけだ。適当に話を捏造しても良かったのだけど、心のどこかで誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
「河邑さんには女友達っていないんですか?」
「いるよ。山のように。」
相変わらずだな、この人。
「そういう子を好きになることは?」
「分からない。だって男と女だし。そんなものでしょ?」
男女関係はいつでも不確かで、どう転ぶかなんて、誰にも予測できないってことだろう。
「まぁ、宮坂さんの彼は大丈夫でしょ。俺、この間会った時に殺されるかと思ったもん。」
「殺される!?」
「俺の彼女に指一本触れるなよってオーラがめちゃくちゃ出てたじゃん。だから、面白くなって、頭なでちゃったけど。」
「河邑さん!」
面白くなってじゃないし!本当にこの男は……
「ねぇ、もし俺があの男から宮坂さんをとったら、彼はどうするんだろうね?」
「ふざけないでください。」
腕を組んだままこちらを眺める河邑さんの胡散臭い笑み!易々とこの人に恋バナをするんじゃなかった。
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