3 悲劇の続き

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3 悲劇の続き

「座礁か」 「船が真っ二つだったそうじゃ」 「福寿丸がなぁ」  小さな港に、回転灯を回す救急車と  、それを取り巻くように、人々が寄り集まっていた。 「それにしても、昨日の地震ですっころんだ訳でもなかろうし」 「海の上じゃもんな」 「それにしてもおっきな地震じゃったな」  騒めきの中、一隻の漁船が堤防を回り、港に入ってくるのが見えた。 「来たぞ」  集まった人々と救急車が、それぞれに準備を始めた。 「しかし、東吾が見つからんとはなぁ」  悔しそうな声で誰かが呟いた。  傍にいた者は、聞きたくないことを無視するように、表情を消し、押し黙った。 その瞬間、小さな沈黙を破るかのように、誰かが、 「あっ」 と声を上げた。  みんなが合図を受けたように振り返った。  港につながる丘からの坂道を、一人の女が狂ったように駆け下りてくる。 「誰だ、知らせちまったのは」  誰かが言うのと同時に、別の誰かがまた、 「あっ」 と、声を上げた。  瞬間、女は坂道に飛び込むように転び、もんどりうった。  いけんいけんと、港から、何人かの男と救急隊員が、慌てて坂道に向かって駆けて行った。  よほどの勢いだったのか、女はうつ伏せのまま、ピクリとも動かなかった。  女の元に駆け付けた男が、 「おい」 と、隣の男を肘で突いた。  突かれた男は、女の腿を伝う血の筋に気付いて、残酷なものを見るように、眉を寄せた。  少し遅れて来た救急隊員が、二人を押しのけて、うつ伏せの女に手をかけた。    港に残った人々は、はらはらとした顔で、港に入ってくる船と坂道を見比べた。  救急車から少し離れたところに、港には不似合いなダークスーツの男が立っている。  夏だというのに、ネクタイを上まで締め、むせ返るような暑さなど感じていないかのように、無表情だった。  男は、鋭い目付きで、漁船が近づくのを眺めていたが、坂道の騒動に目をやってから、そっとその場を離れていった。
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