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私達の指が触れるか触れないか、そんなタイミングでかかってきた甲高い声。
見ると、肩の露出がある服を着た少し年上の女の人が、細身のジーンズの脚で、ヒールを鳴らしながら駆け寄ってきた。
「…先輩」
彼の声が、低く耳に降って来る。
「こんにちは。あ、もしかしてこちらが噂の妹さん? やだ、レス遅いから、デートかと思っちゃったじゃない。初めまして、私はお兄さんの――――――」
正直、展開が早くて先輩の話についていけてなかった。
こういう時、私の周りには、私を待ってくれる優しい人が多いんだなって実感する。
「この子は妹じゃなくて、僕の彼女ですよ、先輩。――――――こちらは、バイト先の先輩」
前者はその先輩に。
そして後者は私に。
言いながら、彼はさっき私が掴み損ねていた大きな手で、私の肩をギュッと引き寄せた。
その強さによろめいた私は、彼の腰に巻かれたシャツの結びに思わず縋ってしまう。
…あ、なんだか、抱き合ってるみたい…。
きっと、私の顔はまた真っ赤。
「は…初めまして」
どうにか絞り出した私の挨拶に、先輩はただただびっくりした様子で瞬きしている。
「先輩も買い物ですか?」
「え? え、ええ、そう、買い物。買い物よ」
「レス遅いのは勘弁してください。僕の優先順位は何よりも彼女なので」
「あ、ええと」
「先輩からのメッセージは、時間が空いた時にちゃんと目を通しておきますから」
「そ…、そぅ…」
「それじゃ、先輩も買い物、楽しんでくださいね」
返事も聞かないまま歩き出した彼に、肩を抱かれたままの私も当然足を進める事になる。
気になって、チラリと肩越しに振り返って見れば、先輩は、少し悲しそうな表情でこっちを見ていた。
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