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ひとつ、気づいたことがあった。一郎は幼い時から異世界を描いたフィクション作品を嗜んできた。その作品で共通していたのは、異世界に行った人間はほとんどの場合別の姿に変わっていたり、力が強くなっているだとか、魔法が使える、その世界で使える道具を持っているなど、物語を円滑に進めることのできるよう、何かしらの変化が主人公の身には訪れていた。しかし、一郎の身には何の変化もなかった。性別が変わったわけでも、力が強くなったわけでも、魔法が使えるようになったわけでも、道具を持っているわけでもなかった。気を失っているところに誰かが声をかけてくる展開もない。服装も変わっていないようだった。自分の部屋にいたときと同じ、無地のTシャツに長ズボンであり、靴も履いていない。ズボンのポケットに何か入っていることを期待したが、残念ながら何も入っていなかった。 「うーん・・・。どうするか。ここにいてもしかたないし・・・」 一郎はあたりを見回した。近くに村や町があるかもしれない。だいたい、ファンタジーの世界ではそういうものなのだ。そこでは様々な種族が賑わい、関わり合いながら、刺激的な毎日が送れる。一郎は期待した。しかし、あたりには村などは見えない。見えるのは広大な自然のみであった。 「まさか誰もいないなんてことはないよな?」 そう思いつつ、一郎はとりあえず草原を歩くことにした。とくにあてはないが、ここにいても時間が経つだけだ。さらに、それに浮かぶ巨大な惑星に睨まれているような気がして、ここに立ち止まっているのが嫌だった。 彼は靴を履いていないため、足が土に汚れ、草がくすぐったい。しばらく歩くと、前方に森が見えた。 「そういえば」一郎は朝から何も口にしていないことを思い出した。何か口にしないと倒れてしまいそうだ。森には何かしらの木の実や果物があるかもしれない。村も町も見えず、動物を狩ることもできない今、そうするしかないのであった。
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