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そんな覚えはない!
「ほらぁ、基地のカレー食堂、閉店する前に食べに来いって呼んでくれたやん。あの時」
私の職場である海上自衛隊阪神基地の、一般人も入れるカレー食堂が閉店したのは昨年の秋だ。
「え? え、じゃあ、相手は――」
「あ、来た!」
私の言葉を遮り、娘が大きく手を振った。突堤への階段を駆け上がってきたのは――部下だった。
「お、お、おまえの意中の人というのは――」
「はい、お嬢さんです! 教えていただいたレシピでカレーを作ったら即OKいただきました!」
相手が娘だと知っていたら、教えてない!
「彼の作るカレー、お父さんのと同じ味がするの」
おまえもそれだけで結婚を決めていいのか!
幸せそうな二人に、私は文句を飲み込んだ。
それに二人に言っても仕方がない――私への報・連・相なし、というのは私の性格を熟知している妻のたてた作戦だろうから。
「今日の夕食はほうれん草カレーでも作るか」
男親の切なさを噛みしめながら呟いた言葉に、呑気な二人は歓声をあげた。(終)
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