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僕は会場となったホテルの一室に要一さんと話し合うために部屋を用意してもらった。
とはいえさすがにそこまで大胆にはなれず、宿泊施設の方ではなくホテル内の料亭の中の個室を借りたのだけど。
僕が個室に着くと、要一さんは既に部屋で僕を待っていた。
「優羽……」
僕の姿を目にした瞬間に、要一さんが嬉しそうに微笑みながら立ち上がった。
それだけで僕は、思わず泣き出しそうになった。
「……優羽、どうしたの?
もしかして……恋人がいるの?
優羽のこと探していたの、迷惑だった?」
要一さんは哀しそうに、困ったように顔を顰める。
「………ちがうの……。
嬉しく……て……」
すると、要一さんは僕にむかってゆっくりと歩いてきた。
僕は少しずつ近づいて来る要一さんをドキドキとしながら見つめていた。
駆け寄ろうにも、足が地面に縫い付けられたように一歩も動けなかったのだ。
要一さんとの距離が近づくとともに、要一さんの柑橘系の香りも濃くなって、僕はどうしていいのか分からなかった。
僕はなんにも知らない。
会社で働くようになって少しは社交も出来るようになったけど、1対1の付き合いなんてなんにも知らない。
デートだってしたことないし。
そんなことが頭の中をぐるぐると駆け巡っている間に、よーちゃんが息がかかる距離まで近づいて。
「優羽……抱きしめても……いいか?」
僕は頭は沸騰した。
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