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よーちゃんは要人叔父さんの婚外子、だった。
よーちゃんのお母さんは、よーちゃんを身ごもるまで要人叔父さんが既婚者だなんて全く知らなかったそうだ。
スポーツジムのインストラクターをしていたよーちゃんのお母さんは、毎週土曜の午後、ジムを利用していた要人叔父さんと親しくなり、交際するに至った。
交際初めて2年ほど過ぎたある日、よーちゃんのお母さんが要人叔父さんに身籠っていることを打ち明けると、叔父さんからの連絡は途絶え、変わりに現れた弁護士から多額の慰謝料と引き替えに堕胎することを求められた。
だけどよーちゃんのお母さんは慰謝料も堕胎も拒絶し、一人でよーちゃんを生んだのだ。
それからよーちゃんはお母さんと二人、決して余裕のある生活ではなかったけれど、幸せに暮らしていたそうだ。
そんな二人の運命が変わったのは、よーちゃんが8歳の時。
よーちゃんのお母さんが職場で急に倒れ、病院へと運ばれた。
そこで知らされたことは。
末期がん。
余命3ヶ月。
自覚症状がなく発見が遅れ、すでに全身に転移している状況だった。
突如として余命わずかと知らされたよーちゃんのお母さんだけど、自分の身体よりなにより、真っ先に一人遺される息子のことを案じた。
よーちゃんのお母さんのご両親は離婚していて別に家庭があり、頼れるものではなく、悩んだ末に、心ならずも慰謝料を持ちかけた弁護士に連絡を取った。
身勝手な理屈だけど要人叔父さんは婿養子で、浮気や妊娠のことがバレたら当然ながら離婚だ。
まして多額の慰謝料なんて、婚家に秘密に要人叔父さんに用意できるはずもない。
恐らく……というかほとんど間違いないだろうが、その弁護士はお祖父ちゃんの弁護士だったのだろう。
なぜならその弁護士によって、よーちゃんはお祖父ちゃんの家に連れてこられたからだ。
お祖父ちゃんがどうしてよーちゃんを自分の屋敷に呼んだその理由は、今となってはもう分からない。
孫に会いたい気持ちがあったのか。
それとも、勉学・スポーツともに優秀で、その頃すでにアルファであると見込まれていたよーちゃんのことを見極めようとしていたのか。
とにかくお祖父ちゃんのその指示によって、僕とよーちゃんの運命が交差したのだった。
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