序章

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「私は貴方と戦いに来たわけでも、ましてや殺しに来たわけでもありません」 「では、何を――」 「話し合いに来たと言ったじゃないですか。一つ、取引をしましょう。貴方の手下たちの安全と勇者エアとの勝利」 「……八百長をしろと言うのか!?」 「貴方がこの交渉に応じてくださるのでしたら、今後も悪いようにはしません。それに、私の実力は見ていただいている通りです。今、残滅させられるか、後に苦戦の挙句倒されるかの違いです。この場所で一人の犠牲者もなく手下たちと心安らかに暮らしたいでしょう?」  脅しだ、とはオランも口に出せない。  最近生まれたハナの産声や、元気に洞窟内を走り回るサバン、いたずら好きのナイル、争いを知らない子どもたちの姿が目に浮かんでくる。 「彼らは、手下ではない。家族だ」 「それは、大変素晴らしい考えです。私どもの最強の勇者であるエアも悪いようにはしないでしょう。あなたたちを傷つけないと誓いますよ」  カイが目元を和らげて、名刺を下げた。ゆっくりと喉が上下する。  エアという勇者がいただろうか。噂にも聞いたことがないが、新参者でいきなり頭角を表すような輩はこれまでにも大勢いた。  あの方の脅威となる。  オランは口の中にまとわりつく唾を飲み込んだ。     
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