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序章
黒玉の間。その名が相応しいほどに黒一色で埋めつくされた空間は、常人には耐え難いほどの重力に支配されていた。
黒々と化石化した樹木があたりから生え、湿気を帯びた空気には毒が混じる。
男は、その重力や毒を見えない結界で跳ね返しているかのように、王座へと続く漆黒の絨毯の上を何事もなく進んでいる。
彼の黒のスーツはこの空間に溶け、彼自身が闇へと染まったかのようだった。
「貴様、どうやってここに入ってきた?」
玉座に悠然と座るオオトカゲの様相の魔物が、掠れた声を響かせる。
ここまで来た勇者は少なからずいた。しかし、一人でやって来た者がかつていただろうか。
重力を跳ね返す魔法を施す者も、彼の盾となる戦士も、回復を司る者もいない。
オオトカゲの王は、自身の思考を表情に出さぬように、彼の二倍もの長さのある槍で床を打ち鳴らした。
通常ならば、大勢の部下たちが地響きをあげて駆けつけてくるはずだ。
「ムダですよ。ここにいる貴方の手下たちが駆けつけてくることはありません」
この重力に耐え、数多の戦をくぐり抜けて来た猛者たちを無傷で倒して来たというのか。
「それでオオトカゲ一族を制圧したつもりか?」
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