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家の中庭へと続く生垣の袂を、砂利を敷き詰めた路の上を、墓地の方向から、幼い弟を抱きながら、彼女の寝かされた部屋へと、静かに歩む「母」の姿が、姉の脳裏に鮮明に浮かび上がった。
布団から起き上がり、中庭に面した襖を開け放つ。
降りしきる雨の中で、小さな弟を両手で抱きかかえ、儚げな面持ちで、濡れた玉砂利の上に佇む、懐かしい顔。
半年前に亡くなった筈の母親が、弟と共にいた。
ぐっしょり濡れた着物の裾と、長い黒髪から雨粒を滴らせる、線の細い輪郭。
涼しげな細い眉と、切れ長の目尻。
人形の様に、すっきりと整った鼻筋。
薄紫色の蕾の様な唇と、血の気のない白い肌。
触れれば失せてしまいそうな繊細な面影が、女の子の方を向いて、微笑みを刻んだ。
愛らしい弟も一緒に、紅葉の様な小さな手を振って、「あー」と声を上げながら、こちらを見ている。
女の子は、その微笑みを垣間見た時、涙が溢れ出た。
―お母さん!―
もう一度逢いたかった、優しい母。
それが、弟と二人で、いま目の前に立っている。まるで夢の様だった。
―お母さん、わたし、わたしね―
驚きと懐かしさと、嬉しさの余り、言葉を詰まらせていると、弟を抱いた母親は、細雨に身を委ねながら、優しい表情で女の子に語り掛けた。
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