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―良く頑張ったね。
お母さんはね、どうしてもこの子が心配で、ついて行く事にしたの。
でも、あなたのことも心配。独りで泣いて苦しんでばかりで…だから迎えに来たの。
さあ、お母さんと一緒に行こう―
陶器を思わせる母親の繊細な唇が、柔らかな口調とは裏腹に、忌まわしい言葉を紡ぎ出す。雨雫を滴らせた、白い掌が差し出された時に、姉は大きな悲鳴を上げた。
―嫌っ!―
ふと気が付くと、姉の女の子は、父親に腕の中で揺さぶられていた。
―大丈夫か…?―
意識を取り戻した女の子は、たった今起こった出来事を、
亡くなった筈の母親が弟と一緒に自分を迎えに来たのだと、父親に話した。
すると父親は眉間に皺を寄せて頷いた。
―そうか…。二階の書斎で仕事をしていたら、階下からお前の悲鳴が聞こえてな。窓の外を見たら、青白い人魂が二つ浮かんでいて、慌てて降りて来たんだ―
―わたし、お母さんに…、せっかく逢えたのに、これが最後なのかも知れないのに、お母さんに怒っちゃった。『何でそんな事を言うの?一緒になんか行きたくないよ!』って。お母さん、悲しそうな顔をして、泣いてるあの子をあやしながら、『ごめんね』って、雨の中を、お墓の方に戻って行っちゃった―
秋時雨の降りしきる中、幼い弟を抱き締めて、砂利を踏み締めながら墓所へと消えて行く白装束の後姿。
父親の腕の中で、振り返る母の横顔を思い浮かべ、女の子は激しく泣き崩れた。
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