面影

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「馬鹿だよね、僕。勝手に舞い上がっちゃって」 その言葉を聞いて、人生で初めて彼に腹がたった。 あなたが馬鹿なら私は何なのだろうか。 五歳から二十二歳の間、ずっとあなたのことを考えて、思い続けてきたのに。その言葉を聞いた瞬間、私は止まることが出来なかった。 「ふざけないで!あなたが馬鹿なら私はもっと馬鹿じゃない!」 大きな声に驚いて彼はパっと私を見た。揺れる前髪に見えた瞳に映る私は、怒りに充ちていた。 こんな姿、彼には見せたくなかったはずなのに。でも私は今しかないと思って、今までの私の気持ちを彼に叫んだ。 「私は、拓馬に会った時から今でも好きなのに!あなたがゲイだと言った時も、彼氏ができた時も、指輪の報告の時だって、私はあなたしか見てなかったのに。ずっと、ずっと、好きだった。ごめんなさい、あなたの幸せを願ってなかったわけじゃないわ。あなたが幸せそうなとき、私も確かに幸せだったの。」 何を言いたいのかも分からないような私の言葉を聞いた彼は固まっていた。本当に鈍感な人だったみたい、人生でこんなに驚いた顔を見たことはなかったわ。 しばらくの沈黙の中、先に口を開いたのは拓馬だった。 「君は、僕のことが好きだったのかい?」 「ええ、今でも好きよ」 私はハッキリと答えた、ずっとため込んでいた想い。少しは身に染みたかしら、十七年は重いでしょう。 「そんな、すまない。僕は君をたくさん傷つけてしまった。」 「謝らないで」 「ぼくは、どう君に償えば」 頭を抱えてつぶやく彼を見て、悪い私が顔を出したわ。きっと、この瞬間私のひどい欲望の種が芽を出したのだと思う。
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