■私■

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「――そうだ。せっかくお見舞いに来てくれたのに、こうして退屈な時間を過ごすのは嫌でしょう? おばあちゃんがお話してあげる」 「どんな話?」 「そうねぇ……今から五十年ぐらい前かしら。おばあちゃんが若い頃ね。まだ学生だった時――おばあちゃんは『神様』を見たのよ」 「神様を!? すごいッ!」 「うん、あの時は本当にビックリしたわ。だって『時雨様』に感謝の気持ちを伝える為にお社に行ったら、後ろの木に変な人が立っていたんだから」  時雨様はこの町の人間なら誰でも知っている神様のことで。  水不足で悩まされていた人々が、神様を祭ってあるお社に願いを言いに行ったら、次の日には大雨が降ったと言う――いかにもおとぎ話みたいな話だ。  でもみんなは“おとぎ話”だって言うけど『時雨様』の信仰心は嘘じゃない。  私がその生き証人だから。  そして――最後の信者だから……
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