■私■

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 時の恵みの雨を降らせた神様――だから『時雨様』と言う名前になった神様の元に。  この町で生まれて、そして暮らしていた私は『時雨様』が住んでいると言われていたお社に、毎日手を合わせに行った。  会ったこともない神様にそんなことをするのはおかしい――と言われたことがある。  確かに今の時代――神様の元に足を運んで、昔の件についてのお礼を言うのはおかしいかもしれない。  でもそのおとぎ話は私が生まれる少し前の出来事の話だ。  つまり――今こうして私が自分の血を引いた孫に出会えるのは『時雨様』のお蔭と言っても過言じゃない。  いや……『時雨様』のお蔭なんだ。  そのことを娘に言ったら、鼻で笑われた記憶がある。 『神様なんて、いるわけないじゃん』――と。  我ながら悲しい子供に育ててしまったと反省するべきだろうけど。  だけど私は――『時雨様』だけは本当に実在する神様だと信じている。
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