刺激の魔法/テーマ:お店

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刺激の魔法/テーマ:お店

 一般の人の目には映らない。  それがこのお店『魔法の館』。  私は一般人と同じ普通の人間。  それなのにここで働く事になった切っ掛けは、今から一年以上前に遡る――。  毎日が退屈で、刺激が欲しいと思いながらも早々やって来ない。  朝起きて仕事へ行き、家に帰ったら眠る。  当たり前で、誰もが同じ社会人の日々。  その中に、少しのスパイスを求めるのはおかしいだろうか。  職場では貼り付けた笑みを浮かべ。  家に帰れば静寂の暗闇の中で瞼を閉じる。  それがつまらないと思うのは贅沢なんだろうか。  それでも求めてしまうのは、私がおかしいからなんだろう。  今日も朝から仕事。  誰もいない部屋で「行ってきます」と声を出す。  返事なんて返って来ないけど、いつもの日々から少しでも抜け出したいという抵抗のようなもの。  鍵をかけて駅へと向かい、電車に揺られる。  満員電車に揺られ、小さな溜息をついたとき、お尻に何かが触れた。  最初はこの状況で触れてしまったんだろうと気にしなかった。  でも、また何かがあたる。  鞄だろうかと思ったけど、直ぐにそれは手である事に気づく。  触られ続けても減るものではないし、怖いとも感じない。  それどころか、普段とは違うこの状況に私は鼓動を高鳴らせていた。 「キミ、何で何も言わないの」  声がした方に視線を向けると、隣に爽やかな男性がいた。  どうやら痴漢に気づいてるみたいだけど、私はその人を不思議に思った。  気づいているなら何故何もせずにいるのかと。  助けを求めてるわけでもないけど、もし気づかないふりをして関わろうとしないようにしてるなら、私に声をかけてくる時点でおかしい。 「キミ、この状況を楽しんでるよね」  図星を突かれて一瞬鼓動が更に大きく高鳴った。  それでも黙ったままでいると「やめてください」と、私は気付かぬうちに声を発し、背後にいた男性の手を掴んでいた。  それに気づいた周りの人の視線が私と置換男に向けられると、男は私の手を振りほどいて止まった駅で降りる。  そして何事もなかったかのように電車は再び走り出す。 「それでいいんだよ。刺激は、別の方法でも得られるからね」  先程の男性の声に隣を見ると、私に微笑みを向けた。  私はあんな事するつもりはなかったのに。  気づいたら勝手に手が動き、声を出していた。  自分の意志に反して。  「――ここにおいで」  その言葉に再び隣を見ると、男性の姿は消えていた。  まるで、最初からいなかったみたいに。  その後私は仕事場に着くと、取引先の人と話をした。  だがその相手は先程の痴漢で、相手は私を見るなり怒り出した。  鞄が当たっただけで痴漢呼ばわりをされたと怒り出し、その日私は上司に叱られた。  そんな一日の帰り道で思うことは『退屈』の一言。  そしてふと思い出したのは、電車にいたあの男性の言葉。  住所は私の家の近くだった。  気づけば私の足は教えられた場所へ向かっていた。  狭い路地を抜けてあったのは、アンティーク風のお店。
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