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普通じゃない日々
今瞳に映るのは、満天の星空だった。
沢山の星が輝き、少し雲はあるものの、綺麗な輝きを放つ光景が私の目の前に広がっている。
「綺麗だなぁ……」
私は毎晩深夜になると、二階のベランダから星空を眺めていた。
周りの建物の明かりも無くなり、星が見やすくなる時間。
この時間に見る夜空が好きで、決まって眺めている。
そして今夜も星空を眺めていると、目の前に何かがヒラヒラと舞い降りてくるのが見え、そっと両手を前へ差し出す。
すると、掌にふわりと舞い降りたのは花びらであり、その月夜に輝く綺麗な花びらがなんなのかは直ぐにわかった。
「桜……?」
指で摘まみ、月の明かりにかざすと、花びらは綺麗に輝いて見える。
今は冬も終わり頃、桜なんて時季外れだというのに、一体どこから来たのだろうかと思っていると、突然影が射し視線を上げる。
すると喉元に、鋭く光る刀の刃先が向けられていた。
全く状況がわからず、真っ直ぐに前を見ると、雲で隠れてしまっていた月が顔を出し、刀を握っている人物の姿が月明かりに照らされ浮かび上がる。
何故かその人は着物を着ており、手には刀が握られ、その刃先は私へと向けられている。
今の時代でも着物を着る人はいることはいるが、こんな時間に人の家のベランダにいるなんて不審者でしかない。
「女、貴様は何者だ?」
「いやいやいや! 私が聞きたいんだけど!?」
「命が惜しければ、黙って俺の質問に答えろ」
刀なんて本物を持ってるいる人など現代にいるはずがないと思い、偽物だとは思うものの、今は男を刺激しないようにと質問に答える。
「私は、この家に住んでる者ですけど」
「ここが貴様のような薄汚い女の家だと?」
「薄汚いって何よ」
男を刺激しないようにとは思っているものの、不審者に薄汚いなど言われれば、流石に怒るのは当然だ。
そんな私ことなど気にする様子もなく、男は私をじっと見詰めた後、何かに納得したように頷くと刀を鞘へと収めた。
「小さくはあるが、面白い造りの城だな。小国の姫といったところか」
「小国? 姫?」
言っている言葉の意味がわからず首を傾げていると、男は言葉を続ける。
「まさか、貴様のような薄汚い女が小国とはいえ姫だとはな」
「なんなんですかさっきから。薄汚いだとか姫だとか。そもそも貴方は誰なんですか」
「この俺を知らぬとはな……。いいだろう、教えてやる。俺の名は、織田 信長だ」
予期せぬ名に、今すぐ部屋の中へと駆け込み、ベッドに置いたままにしていた携帯で110番したい気持ちになる。
これは電波さんで危ない人に違いない。
隙を見つけ、早く家に入りスマホを取りたいところだが、なかなか隙が見つからずどうすることもできない。
とりあえずはこの男の言ってる話に合わせ、隙ができたら家へ駆け込んで警察を呼ぶことに決めたところで口を開く。
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