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「それで、信長さんが何でここにいるんですか?」
「それがだな、家臣の奴等があまりに煩いんで桜の木に登ったんだが、地面に降りたと思ったらここにいたんだ」
またもよくわからないことを言い出したと思ったときあることを思い出す。
握られていた掌を見てみると、そこには先ほど空から降ってきた桜の花びら。
もしかしたら、この男の人が言ってることは事実で、今目の前にいるのは織田 信長本人なのではないかと思い始めてしまう。
この時期に桜なんて咲かないし、そもそもこの辺りに桜の木なんて一本もない。
信じがたい事ではあるが、それなら全てに納得ができる。
「突然昼が夜になっていたのにも驚いたが、いつの間にか知らぬ国へと来ていたことにも驚いたぞ。一体ここは何という国なんだ」
興味津々といった様子の信長さんに、どう今の現状を説明したら伝わるのかはわからないが、兎に角説明を試みることにした。
目の前にいる人物があの信長さんなんてまだ信じられないが、嘘を言っているようにも見えない。
「信長さん、今から私の話すことをしっかり聞いてくださいね」
私は自分が考えついた結論を信長さんにもわかるような言葉で説明をする。
その考えた結論というのがタイムスリップ。
どういうわけかはわからないが、何らかの原因で信長さんは未来に来てしまったに違いない。
「という訳なんですが、わかりましたか?」
信長さんは黙ってしまい、やっぱり戦国時代の人にこんな話をしてもわからなかったのかもしれない。
自分さえも信じがたいことだというのに、歴史上の人物に信じろという方が無理な話なのかもしれないと半分諦めかけたとき、黙り込んでいた信長さんが口を開いた。
「なるほどな。世界には不思議なことがあるからな、ありえなくもない話だ」
「信じてくださるんですか?」
「ああ。貴様のような薄汚い女が姫という方のが信じられないからな」
「はぁ……もういいです。信じてくださったのなら」
いちいち発言に怒りが込み上げてくるが、流石織田 信長と言うべきか、戦国時代の武将だというのに、一回話しただけで理解ができてしまった上にすでにこの話を信じている。
話した私でさえまだ信じられないと言うのに。
「こうなってしまったら仕方あるまい。元の時代に戻れるまで世話になるとしよう」
「え……?」
「喜べ娘。この俺、織田 信長と共に暮らせるのだからな」
武将というのはなんだか俺様で溜息が漏れてしまうが、だからといってこのままにすることもできず、私は信長さんを空いている部屋へと案内する。
「この部屋を使ってください」
部屋に入ると、信長さんは珍しそうに部屋の中を見回し、瞳を輝かせていた。
「見たことのない物ばかりで面白い城だな」
「城じゃないんですけどね。兎に角今日は遅いですし、この部屋を使ってください」
「ふむ、なかなか良い部屋だ」
信長さんは部屋を気に入ったらしく、置いてある物全てに興味を示している。
「それでは、お休みなさい」
眠気も限界となってきたため、私も自室へと戻ると布団の中へと入る。
いつも通りベランダから夜空を眺めていただけだというのに、まさかこんなことになるなんて予想できるはずもない。
明日起きたら全部夢だったらいいのに、なんて考えながら瞼を閉じると、ゆっくりと眠りへとつく。
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