233人が本棚に入れています
本棚に追加
「この希望はオモロすぎるわ! でも、あんまからかうと本気で怒られるで」
そう言った男子生徒の言葉に皆が笑う。
いくらからかうといっても、こんな風に笑いものにされるなんて酷すぎる。
アタシは目頭が熱くなるのをぐっと我慢して、羞恥心に耐えた。
その後、皆が書いた紙は勿論集められることはなく、ただの先生の冗談、生徒の息抜きの笑いとなり終わった。
でもアタシはそれで終わりにはできない。
今までは、ちょっとしたからかいだけだったから許せたが、今回は違う。
冗談でもあんな風に書いて笑いものにして、アタシは本気で怒っていた。
「今日も手作りなんやな。料理だけ見るとお前も女なんやな」
お昼、机にお弁当を広げると、相変わらずトゲのある言葉をかけてくる真才。
いつもなら「料理だけ見るとは余計や」なんてツッコむところだが、今日は無視。
そんなアタシに何度も声をかけてくる真才。
あんなことしといてよくも声をかけられるもんだ。
「何さっきから無視してんねん」
「うっさいわ! うけない漫才師は黙っとりや」
「誰がうけない漫才師や! 俺は右消袮 真才や」
アタシはその後も無視を続けた。
あんな冗談クラスの皆ががうけてもアタシはうけない。
いくらなんでも、やっていいことと悪いことの区別くらいわかるはずだ。
真才がアタシをどれだけ嫌いなのかはわかった。
でもそれなら、何で話しかけてくるのか理解できない。
それから時間は過ぎ、今は放課後。
真才とはあれから口を利いていない。
帰り支度をして教室を出ようとしたとき、背後から真才に呼び止められたが歩みは止めず階段を降りようとすると、突然背後から腕を掴まれそのまま引っ張られた。
「なんで無視してんねん」
階段を前にして、アタシは真才に背を向けたままその手を振り払おうとするけど、強い力で握られた手はビクともしない。
アタシは渋々顔だけを後ろに向けると、ただ一言「放して」とだけ言った。
「俺の質問に答えろや!」
怒っている表情に声。
なんでそれを真才がするのか。
あんなことしておいて無視されるのは嫌なんて、自分勝手だ。
朝のことを思い出しただけで再び怒りが溢れる。
「アタシが、何されても怒らないと思っとるん……?」
そう静かに口にしたアタシの頬には涙が伝っていた。
それに気づいた真才が驚いた表情を浮かべ、アタシの腕を掴んでいた手が緩む。
その瞬間、アタシは階段を駆け下りた。
すでに人は少なくなってきてるけど、泣き顔なんて見られたくなくて手で涙を拭う。
下駄場で靴に履き替えると、逃げるように帰路を走る。
息が限界になったところで立ち止まると、アタシは肩で息をしていた。
その日の夜、私は暗い表情をしていた。
皆や真才にからかわれたりするのはいつもの事。
でも、今回だけは許せない。
お風呂上がり、アタシは鞄から結婚志望の紙を取り出しその名前を見る。
アタシが昨日、一人だけ浮かんだ人物の名前。
その名を指でなぞったとき、スマホが鳴る。
誰だろうかと画面を見ると、真才の名。
一年の頃、最初に仲良くなった時に交換してから一度も表示されることがなかった名前。
まだ何か用があるんだろうか。
しばらく無視していたが、鳴り続ける着信音に渋々出る。
最初のコメントを投稿しよう!