233人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前、人の話は最後まで聞けや」
開口一番が謝罪でもなくこれ。
真才が謝るなんて想像すらできないからわかってはいたけど、嫌いなら放っておいてほしい。
アタシ達は好きで三年間一緒のクラスになってるわけじゃないんだから、嫌なら口を利かなければいいだけのこと。
なのにいつも真才は声をかけてくるから、クラスの皆にからかわれる。
全部真才のせいなのに、何でアタシが傷付いたり怒ったりしなくちゃいけないのか。
「お前が怒ってんのってさ、朝のやつなんか……?」
アタシは無言のまま。
それを肯定と受け取った真才は、大きく息を吐き出した。
何でアタシが溜息を吐かれているんだろうかと思っていると、今度は息を大きく吸い込む音が電話の向こうから聞こえる。
「すまん」
「え……?」
思いもしなかった言葉にアタシはつい声が漏れた。
真才が今までに謝ったことなんて一度も無かったから驚きが隠せない。
「ホンマ悪いことした思うとる。でも言えへんかったんや、あの紙に書いたんが冗談やないなんて」
アタシは頭に疑問符を浮かべる。
その言葉は、あの紙に書いた名前が事実であるということ。
「いつもの冗談みたいにしとったら、お前も怒りながらも許してくれる思ってたんや」
頭の理解が追いつかないまま話し続ける真才。
つまり真才は結婚志望がアタシなわけで、それはアタシを好きということ。
いつの間にか謝罪から告白に変わっていたことにようやく理解が追いついて、アタシの顔は熱を帯びる。
いつもからかってきて、犬猿の仲の真才がアタシを好きなんて。
「ありえへん……。真才、アンタ冗談言うのも大概にしいや!! 全ッ然笑えへんわ!!」
「こんな事冗談でいうかドアホ!!」
「誰がアホやねん!」
怒っていた気持ちは何処かへ消えてしまい、いつも通りに会話していたアタシと真才。
いつもの言い合いをして通話を終えたあと、アタシは再び自分の結婚志望に視線を向けた。
そこには、第一希望に埋まっていた右消袮 真才の名前。
アタシが唯一頭に浮かんだ人物。
今日アタシが泣いたり怒ったりしたのは、真才がアタシをあんな風にからかったからでも、あんな事をしておいて平気で話し掛けて来たからでもない。
ただ悲しかった。
真才はアタシの事なんて何とも思ってないんだって。
それで一人拗ねていただけ。
あんな風にからかわれた事より、真才になんとも思われてないことの方がアタシには辛かったから。
アタシは、電話での真才の言葉を思い出し口元を緩める。
電話で話しただけで辛かった気持ちが何処かへ行ってしまうなんて、認めたくないけどやっぱりアタシは真才に恋をしてるみたい。
着信履歴を開いて真才の名前を何度も確認しながら、これは現実なんだと嬉しさを噛み締めて眠りについた。
─end─
最初のコメントを投稿しよう!