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「で、約束って言うからには、政宗も私との約束を忘れてないんでしょうね?」
「決まっている。だが、まだこれといった手がかりは見つかっていない」
まさか本当に探してくれているとは思わず、どうやら約束は守る人のようだ。
だが、今のままでは帰り方が見つかったとしても、帰してはくれないだろう。
何とかして嫌われなければと思ってはいてもどうしたらいいのかわからないまま、お昼となり、またも二人で向かい合いながら食事をする。
「食べていて思うけど、ここで出される料理って美味しいよね」
「当たり前だ、腕のいい女中に作らせているからな。だが、俺の料理はこれ以上に美味いぞ」
「え?政宗って料理できるの?」
「ああ。料理を作るのは楽しいからな」
男、それも政宗。
一国の主君が料理など本当に出来るのだろうかと思っていると、そんか瑠璃の考えに気づいたのか、政宗はムッとした表情で、お前、信じていないなと一言言う。
すると、事実であることを証明すべく、今夜の夕食は政宗が作ると言い出した。
「今夜の夕餉を楽しみにするんだな」
それから部屋に戻った瑠璃はというと、襖越しに声をかけられ返事をすると、小十郎が部屋の中へとやって来た。
「政宗様からお聞きしました。今日の夕餉は政宗様の作った物を食べられるそうですね」
「会話の流れでいつの間にかそうなっていました」
苦笑いを浮かべながら答えると、小十郎はポツリと言葉を漏らした。
「もしかすると貴方なら、政宗様の傷が癒せるかも知れませんね」
どういう意味なのか尋ねようとしたが、小十郎はスッと立ち上がると、今日の夕餉は有り難く召し上がってくださいねと言い残し、部屋を出ていってしまう。
結局、小十郎の言った言葉の意味はわからないまま夜を迎えると、襖が勢いよく開かれ、政宗の部屋まで連れてこられると、目の前には何品かの料理が置かれていた。
「食べてみろ」
こうもじっと見つめられていると食べにくいが、お吸い物の入った器を手に取ると口につけ、ゆっくりと傾け一口飲む。
「美味しい!!」
食材は同じものの筈なのに、女中と政宗が作るだけでこんなにも変わるものなのだと改めて感心する。
それから二人夕餉を済ませるが、政宗の許可がない限り部屋に戻ることはできないため、瑠璃はまだ部屋に留まっていた。
どうしたらいいのかと考えていると、政宗に手招きをされたため近づく。
すると、伸ばされた手が瑠璃の腕を掴み、瑠璃の体は政宗の胸に引き寄せられてしまう。
顔を上げれば、前と同じ美しい夜空が広がっている。
そんな夜空を眺めていると、悲しげな声音が耳に届いた。
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