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「へぇ……」
「音としては聞こえるけど、言葉に聞こえないの。言葉がぐにゃっとうねると言うか……例えて言うなら私達がスペイン語講座を聞いても、その発音を理解できないのと一緒かな」
この辺の感覚は聞こえない人にしか分からないところだから説明に困る。
人間の耳はよくできていて、聞きたい音、つまり人の声だけを理解できるように自分で気付かないうちに調節しているのだけど、私の補聴器は人の声の波長の辺りをざっくり掴んで大きくするだけだから、音としては聞こえても言葉としての判別がしづらいのだ。
だけどあまり深刻に受け取られても困るから、私は声のトーンを少し明るめにしてみた。
「まぁ、基本的は気にしないでもらっていいってことね。ただ、話しかけてもらってるのに、返事が無い時も出てくると思うの。それは無視してるわけじゃないから、そういう時はツンと肩でも突っついてよ。それから私が聞き返した時はそれが大した内容じゃなくても教えてくれる? 今のは聞いてもらわなくてもいいよって言われちゃうのが、私には仲間はずれにされたみたいで寂しいから」
「分かりました」
話の内容が内容だけに、中一の五人は神妙な顔で頷いていた。
本当は右側から話しかけて欲しいとか、耳慣れていない人の言葉は特別聞き取りにくいからゆっくりはっきり発音してほしいとか、伝えたいことはまだまだ山盛りなんだけど、一気に言うと今度は私に話しかけるのが億劫になっちゃうだろうから、今はこれくらいにしておく。
「先輩って、こういうのをオープンにする方なんすね」
私が話し終えると、城田君が感心したように言った。
「え?」
「ほら、嫌がる人もいるじゃないっすか。女の人は髪の毛でも隠せるし、補聴器のことを周りに言わない人も多いみたいで」
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