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城田君の感想に、私は思わず裕太君に目を向けた。彼の方も同じことを思ったらしく、一瞬互いの視線が交錯し、そして二人で微笑む。
「うん。私もね、去年はそうしてたよ。よく聞こえないのに聞こえるふりしてとりあえずニコニコ笑って……って、まぁそれは今もやるんだけど。でも例え無視してるって言われても、じっと我慢してやり過ごせばいい、どうせこんな耳のことは誰も理解できないんだから、って思ってた」
聞こえないことを認めたく無い気持ちと、やっぱりみんなとは違う、同じことをできないという疎外感、焦り、悔しさ。
いろんな想いを抱え込み、私は自分の周囲に壁を作っていた。その壁を壊して外の世界へ連れ出してくれたのは裕太君だ。
「でもこんな耳の私でも受け入れてもらえるって分かったから。もう隠さないことにしたの」
そう決めてからポニーテールにしている。おかげで道行く人にもじろじろと耳元を見られるようになったけど、これが私なんだからって堂々とすることにした。
「ふうん、すごいっすね」
城田君は感嘆の声を上げた。
「え?」
「だって難聴なのにこんな偏差値高い学校入って、部活もやって、おまけに彼氏まで作っちゃって」
「―――そう言うあんたは聞こえるのに、彼女の一人もいなさそうだね」
城田君の言葉に重ねる形で指摘してきたのは、弓道場に入ってきたばかりのマユちゃんだった。よく通る澄んだ声。彼女もまた、はきはきとした発音でしゃべってくれるから、私の耳でもききとりやすい。
「要するに、耳がどうこうは彼氏の有無に関係無いってことだよね」
マユちゃんは城田君を一瞥し、しょっぱなから睨まれてしまった彼は「確かにそうっすね」と小さく肩をすくめた。
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