1章 二年目の新学期

4/9
前へ
/145ページ
次へ
 噂をすればなんとやら、マユちゃんだ。 「あら、入り口の鍵が開いてると思ったら、二人してこんなトコで食べてたの?」 「マユこそ、どうしたんだよ?」  まだ色濃く残っている頬の赤みを気にしたのか、やたらと顔をこすりながなら裕太君が言った。 「ロッカーの中に辞書を入れっぱなしだったから取りに来ただけ」  邪魔したね、と言ってすぐ出ていこうとしたマユちゃんだったけど、去り際に「……念のための確認だけどさ」と足を止めて振り返った。 「ここ、部室だからね」  マチガイは起こさないでよ、という念押し。裕太君は肩をすくめて応じた。 「分かってるよ。そういうことを疑われないように窓も開けっぱなしだし、部の仕事もこうやってちゃんとやってる」  彼のお弁当箱の下には弓道部の会計帳面が広げてある。レシートがビラビラ貼ってあるやつだ。裕太君がそれを掲げてみせると「いい口実だねぇ」とマユちゃんはニヤニヤ笑った。 「ま、不純異性交遊だとかで活動停止にさえならなきゃ、後は好きにやってくれていいよ」  そう言ってマユちゃんが部室を出ていった後、裕太君は顔をひきつらせていた。 「不純異性交遊って……何てこと言い出すんだよ、あいつ」 「ホントだよねぇ。私たちがそんなことするわけ無いじゃん」  私も大きく頷いて同意した。お堅い裕太君に限ってその展開はありえない。  ところが私があまりにきっぱり言い過ぎたのは気に障ったらしく、彼はなんともまどろっこしげな目を向けてきたのだ。 「……いや別に、する気が全く無いってわけでもないんだけどさ」 「うん? ここ部室だよ」 「でも二人きりだぜ」 「あぁ、そっか。忘れてた」 「とぼけるなよ」     
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加