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噂をすればなんとやら、マユちゃんだ。
「あら、入り口の鍵が開いてると思ったら、二人してこんなトコで食べてたの?」
「マユこそ、どうしたんだよ?」
まだ色濃く残っている頬の赤みを気にしたのか、やたらと顔をこすりながなら裕太君が言った。
「ロッカーの中に辞書を入れっぱなしだったから取りに来ただけ」
邪魔したね、と言ってすぐ出ていこうとしたマユちゃんだったけど、去り際に「……念のための確認だけどさ」と足を止めて振り返った。
「ここ、部室だからね」
マチガイは起こさないでよ、という念押し。裕太君は肩をすくめて応じた。
「分かってるよ。そういうことを疑われないように窓も開けっぱなしだし、部の仕事もこうやってちゃんとやってる」
彼のお弁当箱の下には弓道部の会計帳面が広げてある。レシートがビラビラ貼ってあるやつだ。裕太君がそれを掲げてみせると「いい口実だねぇ」とマユちゃんはニヤニヤ笑った。
「ま、不純異性交遊だとかで活動停止にさえならなきゃ、後は好きにやってくれていいよ」
そう言ってマユちゃんが部室を出ていった後、裕太君は顔をひきつらせていた。
「不純異性交遊って……何てこと言い出すんだよ、あいつ」
「ホントだよねぇ。私たちがそんなことするわけ無いじゃん」
私も大きく頷いて同意した。お堅い裕太君に限ってその展開はありえない。
ところが私があまりにきっぱり言い過ぎたのは気に障ったらしく、彼はなんともまどろっこしげな目を向けてきたのだ。
「……いや別に、する気が全く無いってわけでもないんだけどさ」
「うん? ここ部室だよ」
「でも二人きりだぜ」
「あぁ、そっか。忘れてた」
「とぼけるなよ」
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