1章 二年目の新学期

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「あぁ、お前らいいトコにいるじゃん! そこのペンケース取ってくれよ」  弾かれたようにぱっと離れる私たち。  窓の縁に手を置き、無邪気な笑みを向けてくるのは同級生の徳井昴流君だった。くりっとした目が愛くるしい、小柄な男の子だ。  私は椅子から立ち上がると窓の側まで行った。 「な、何? どうかしたの?」 「机の上にある水色のペンケース。ほら、それ取って」  指をさされたから振り返ったら、ちょうど裕太君がそのペンケースを掴んでいるところだった。 「……そうなんだよ。俺だって別に何もしないつもりってわけでもないんだけど、そのたびに毎度毎度こいつが邪魔してきてさ―――」  ぶつぶつと呟いている裕太君の手は、ペンケースを握りつぶしてしまうくらい小刻みに震えていた。 「いい加減にしろ!」  怒り心頭の裕太君は、きょとんとした目をしている昴流君めがけて、全力でペンケースを投げつけたのだった。  そんな訳で、放課後になっても裕太君はご機嫌斜めだった。まぁ、そういう心の狭いところも可愛いんだけどね。  だから袴を着て弓道場へ現れた昴流君に対してもやたらと恨みがましい目を向けちゃって。だけどド天然の昴流君は何に臍を曲げられているのか、いまいちピンと来てないみたいだった。 「何だよ、ユータ。昼休みに部室でしおりんとキスしてるとこ見られたくらいで、そんなにイジケんなよ」 「そういうことを大きな声で言うな!」  後輩たちに余計なことを聞かれてしまい、裕太君は茹蛸みたいに顔を赤くしてしまった。ちなみに、側にいる後輩たちは笑いをこらえるのに必死だ。 「だけどさ、俺たちみんなの部室なんだから、ユータたちが何やってようとそりゃ顔くらい出すって」
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