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「それでも! あの状況なら、少しは気を遣えよ!」
「いーじゃん。別にあれが初めてって訳でもなくて、他でいっぱいしてんだろ」
……あぁ、昴流くん。残念ながらさっきのがファーストキスだったんだよ。
私たちが付き合い始めたのは去年のクリスマス。だけど裕太君は男子校育ちなだけにお堅いものだから、なかなかそういう方向には話が進まなくてねぇ。
「大体、あの状況で俺にどうしろってんだよ。筆箱が無いままじゃ俺だって勉強できねぇじゃん」
「じゃあ午前中はどうやって授業受けてたんだよ?!」
「それがどういうことだか、無い事にも全然気づかなくてさ」
「どーいう授業の受け方してんだ、お前は!」
弓道場の真ん中でぎゃあぎゃあ言い合っちゃってるけど、この二人、実は小学校以来の幼馴染でとても仲良し。昴流君は中学受験で立共に落ちちゃったけど、めげずに高校受験で再チャレンジして、めでたく同じ学校に通えることになったそうだ。ちなみに裕太君が主将で、昴流君は副主将を務めている。
「二人とも……」
私は二人の筒袖を引っ張って会話を中断させ、周りを見るように促した。
後輩たちは二人の会話に聞き耳を立てつつも、掃除に励んでいるのだ。新学期の始まりを気持ちよく迎えるため、そして新入部員を迎えるために弓道場の床の雑巾がけなどを頑張っている。
みっともない真似を晒していることにようやく気づいた二人は、顔を見合わせると一時停戦を決めた。そして昴流君はこの場を取り繕うように明るい声をあげたのだ。
「いやぁ、今年はどんな奴が入るかな。入部届を出してきたのは高一が一人と中一が五人だろ。もしもマユみたいのが混ざってたら、試合でもいいトコ狙えるんじゃね?」
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