1章 二年目の新学期

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 小学校からずっと弓道をやっていたマユちゃんは高校でも弓道を続けたい、と弓道部のある立共学院へ入学したそうだ。なのにインターハイへの参加権すら無いなんて、彼女にとってはだまし討ちにあったも同然。  でもマユちゃんは諦めなかった。  立共は歴史と伝統を重んじる学校ではあるけれど、去年、男子校が共学になるくらいの大きな変化を遂げたのだ。それならインターハイだってどうにかなるだろうと考え、学校側と交渉するため生徒会での活動を始めた。  裕太君は頬を引きつらせている。 「あいつ、弓のために本当に生徒会までやってるのかよ……見境ないな」 「マユはとにかく弓道命だもんな。インターハイに出られるくらいの腕があるだけに、諦めらんないんだろ」 「そう考えると、お前は早めに諦められる腕で良かったよな」 「なにおう! 永遠のライバルに向かってそりゃ失礼だろ!」 「……なぁ、その設定って小学校から続いてるけど、いつまでやるつもりなんだ?」 「だから永遠だっての。俺がお前をずばっと抜くまでだ」 「そりゃ確かに永遠になりそうだな」  裕太君たちがそんないつものやりとりをしているうちに、弓道場の入り口の引き戸が音を立てて開いた。 「ちわーっす」  現れたのは真新しい学ランに身を包んだ背の高い男の子だった。ひどい猫背で、学ランの一番上のボタンも外している。 「弓道場ってここっすか」 「えーっと……新入生だよな?」  裕太君がわざわざ聞き直してしまったのも無理はない。その子は体操着袋を持っていたものの、ひどくかったるげな態度で入部希望者らしい初々しさに欠けていたのだから。  しかし彼は半笑いを浮かべ、顎を突き出し気味に名乗ったのだ。 「高一の城田凉雅っす。これからよろしくお願いしまぁす」
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