1章 二年目の新学期

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1章 二年目の新学期

 ランドマークタワーに赤レンガ倉庫、山下公園、氷川丸―――港町横浜が誇る超有名観光スポットを見下ろす小高い丘の上に、私の通う高校は建っている。  山手立共学院。  148年前、横浜-新橋間に鉄道が走ったのよりも前に創設されたというこの歴史ある学校は、キリスト教の教えを教育の基本に掲げる中高一貫の私立学校だ。  元は男子校だったけれど少子化やらの影響のせいで去年から共学になり、私はその第一期生として高校から編入している。  男子校だったところへ女子がやってきたのだから、元々通っていた男の子たちの戸惑いも大きかったとは思うけれど、一年も経てば黒い学ランの中に臙脂色の襟のセーラー服が混ざっている日常にも馴染んでしまうもので、今はこの通り……。 「ねぇ、裕太君。いい加減立ち直ろうよ」  昼休み。弓道場に併設された部室の中でお昼ご飯を食べながら、私は目の前に座っている銀縁眼鏡の男の子を眺めていた。彼は無気力感満載でお弁当の卵焼きを咀嚼しているところだったのだ。 「もう1週間だよ。同じクラスになれなかったくらいでそんなに凹まなくてもいいじゃん」 「くらいで?」  彼は私の言い方が気に入らなかったみたいで、眼鏡の下の目を湿っぽく光らせてしまった。 「高二と高三はそのまま持ち上がりだからクラス替えがないんだ。つまり俺が栞ちゃんと同じクラスになれるチャンスは今年しかなかったってのに、これが大したことじゃないって?」  こんなねちっこい絡み方をしてくる彼も、ちょうど一年前には『女子なんて俺たちの立共学院には必要ない!』って力説していた超堅物男だったんだから、時の流れって恐ろしい。
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