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ガンジス川は黒々として、不穏な空気を醸し出し、何か恐ろしい生き物が潜んでいるように思えた。ついこの間、この場所で、四人揃って見た陽の光に輝く姿とはあまりにもかけ離れている。ほんの数日で何もかもが大きく変わってしまった。
おれは、川の下流のほうに目をやった。
ペックの遺体は今、どのあたりを流れているのだろうかと考え、もし、わかれば今からペックを救い出したいという衝動に襲われる。
わかるはずはない。仮にわかっても、ペックはもうおれたちの手の届かない場所に行ってしまっている。今さら何をすることもできない。
ふっと見ると、小澤と宮田もガンジス川の方に視線を向けている。
さっきまで強がっていた小澤の顔にも、冷静さを保っていた宮田の顔にも、疲れと不安が色濃く滲んでいる。そのことが、もう輝かしい未来はおれたちにないことをリアルに教える。これからは決して拭えない罪と、いつ捕まるかという恐怖心を背負いながら生きていくしかない。
翌日、おれと小澤は別々にベナレスを離れ、宮田は残った。
*
おれはベナレスから夜行列車に乗ってデリーに向い、そこから飛行機で帰国した。
かなり気が動転していたのだろう、その間のことは夢遊病患者のようにほとんど覚えていない。寝台列車に長い時間揺られていたのだが、ほとんど寝ていた。ずっと夢を見ていたような気もするが、何も覚えていない。
日本に戻ってからも、ベナレスでの出来事が本当に起こったことなのか、夢だったのかわからなくなるような感覚があった。だが、残念ながら現実だ。おれは罪を犯してしまった。本来なら罰せられる人間なのだ。
日本に戻ってから最初の頃は、いつ警察から連絡があるか、びくびくしていた。
だが、いつになってもインドの警察からも日本の警察からも何の連絡もなかった。
もう大丈夫だ。小澤の言った通り、インドで起きたことだ。うやむやになっているに違いないという気持ちになった。すると、ようやくあの事件のことを冷静に考えられるようになった。
もしかしたら、小澤は最初からペックを殺す計画を立てていたのではないだろうか。
ペックがレイコをレイプするところを小澤以外は見ていない。あんなふうにちょうど近くに遺体を包む布やロープがあるのも偶然にしてはできすぎている。
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